2025.07.16

“節税住宅”🏠相続と不動産の富裕層戦略

都心のタワーマンションが、一時期「節税の切り札」として注目を集めた背景をご存知だろうか。相続税の課税評価における“仕組みの穴”を突くかたちで、不動産を活用した資産防衛戦略が広がった。しかし2022年の税制改正を境に、この流れには大きな変化が起きている。富裕層にとって不動産は、単なる「住まい」ではない。相続・税制・評価の文脈をふまえた“戦略資産”なのだ。

本稿では、いわゆる「タワマン節税」のメカニズムと課題、制度改正による影響、そして今後の不動産戦略に求められる視点について解説する。

1. “タワマン節税”はなぜ有効だったのか?

かつて都心の高層マンション(タワマン)は、「相続税評価額を大幅に圧縮できる物件」として重宝された。その背景には、以下のような評価方法の“非対称性”がある。

  • 相続税評価額(= 固定資産税評価額 + 路線価ベースの敷地持分評価)
  • 実勢価格(= 市場での売買価格)

たとえば、1億円で購入したタワマンでも、相続税評価額は6,000万円以下となることがあり、この“差額”が非課税同然で移転できるという点が節税効果として注目された。

特に、上層階・眺望良好・希少立地など、マーケットで高値がつく物件ほど「評価額との差」が大きく、効果が顕著だった。

2. 問題視された「評価と実態の乖離」

この手法に対し、税務当局や制度設計側からは、次第に問題視する声が上がった。その理由は次の通りだ。

  • 高額物件ほど評価とのギャップが顕著
  • 節税目的で物件が短期売買される傾向(“持たない前提”の購入)
  • 本来の納税義務の公平性を損なう

中には、「賃貸にも住まず、所有したまま相続タイミングを迎えるだけ」の“投資型相続”が横行し、不動産の本質的価値と乖離した利用が問題視された。

3. 2022年の税制改正──“逃げ道”は封じられたのか?

2022年の税制改正では、以下のような評価ルールの見直しが行われた。

【改正のポイント】

  • 「著しく評価額と実勢価格が乖離している場合」は、税務当局が個別に補正できる仕組みを導入
  • 高層階など、市場価格に著しい影響を与える要素を加味した評価を可能に
  • 短期間保有・短期間売却など、租税回避的行為が疑われる場合の重点監視

これにより、タワマン節税の“万能性”は失われた。形式的に評価額を圧縮できても、実態が伴わなければ否認されるリスクが高まったのだ。

4. “節税目的”で買う時代は終わったのか?

こうした制度変更を経てもなお、不動産を活用した資産戦略の重要性は変わらない。ただし、「税制を逆手に取る」フェーズから、「資産構成全体における合理性」を問われる時代へと移行したと言える。

【いま重視される3つの視点】

  1. 実需とのバランス:節税だけでなく、“将来的に住まう”“貸す”という利用可能性があるか
  2. 市場性の高さ:流動性(売却しやすさ)、貸しやすさ、再開発との親和性
  3. 相続後の管理負担:複数相続人がいる場合のトラブル回避策や法人保有スキームなど

つまり、不動産は「節税商品」ではなく、「相続や事業承継の一環としての資産設計ツール」に位置付けられるべき存在となった。

5. 富裕層が“戦略的に買う”ということ

いま、富裕層の間で再び注目されているのは、以下のような“節税以外の合理性”を備えた物件である。

  • 長期保有に耐えうる立地(再開発や国際需要に支えられたエリア)
  • 賃貸需要が高く、相続後も安定収益が期待できる物件
  • 税理士・弁護士・ファミリーオフィスと連携した所有スキーム(法人化、信託化等)

こうした「買う理由」が、税務対策以上に“資産全体の合理性”に基づいている点がポイントだ。不動産は“見える資産”であるがゆえに、他の資産(株式・債券・事業持株など)と比べて相続対策におけるバランス設計が必要とされる。

6. 最後に:不動産は“守り”ではなく“攻め”の戦略資産へ

タワマン節税の終焉は、不動産活用の可能性を否定するものではない。むしろ、制度の“スキマ”を狙う短期的視点から、長期的・多面的な戦略に基づいた不動産の取得・保有・継承へと進化している。

富裕層にとっての「買う理由」は、いまや“節税”だけではない。住むため、貸すため、引き継ぐため──すべての選択が、資産全体の設計とリンクしている。

そして、不動産の戦略的活用が意味するのは、「次世代に何を遺せるか」という問いに対する、もっとも具体的な解答なのである。


港区から世界のエンドユーザーへ!を掲げ、港区を中心とした高級不動産に関するコラムを執筆中。
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