2025.06.18

東京の都市開発の現在地と未来図🗺

東京が直面する課題(人口減少 vs 国際競争力)

2020年代に入り、東京はかつてない転換点を迎えている。人口減少や高齢化という国内の構造課題に直面する一方、アジアの中心としての国際競争力を維持・強化する使命も担う。その中で都市開発、特に都心部の再開発プロジェクトは、「経済成長」「国際交流」「居住価値」の三位一体を体現する政策手段として注目されている。

いま東京で進行中の大型再開発は、単なる不動産の建て替えにとどまらず、都市機能の高度化、文化創造、環境配慮、そしてグローバルな都市戦略を包含している。虎ノ門・麻布台ヒルズ、渋谷、竹芝──それぞれの開発は異なる文脈を持ちながらも、共通して「都市の未来」を描き出そうとしている。

本稿では、これら主要再開発プロジェクトを俯瞰しながら、東京の都市としての進化と、そこで生まれる新たな暮らし・文化の姿に迫る。

虎ノ門・麻布台ヒルズ:国際都市型レジデンスとMORIの戦略

2023年11月に開業した麻布台ヒルズは、森ビルによる約30年の構想と約10年の建設期間を経て完成した、まさに“東京の都市再創造”の象徴だ。虎ノ門ヒルズとの都市接続を果たし、総延床面積86万m2、オフィス、住宅、ホテル、商業、文化施設が一体となった都市型複合開発は、単なる不動産ではなく“都市の器”そのものとして設計されている。

このエリアで注目すべきは、都市居住の新たなモデルとして設計された「麻布台ヒルズレジデンス」である。日本有数の高級レジデンスとして、最上階にはラグジュアリーホテル「ジャヌ東京」のサービスが行き届いた住戸が存在し、共用部にはアートインスタレーション(オラファー・エリアソン、落合陽一など)やウェルビーイング施設が配置されている。

また、緑地率を約30%に設定し、都市でありながら自然との共生を目指したランドスケープ設計も特徴的だ。これにより「グローバル・ウェルビーイング・シティ」としてのブランドが確立され、欧米・アジアの富裕層からも注目を集めている。

森ビルの戦略は、六本木ヒルズ以来の“都市型ライフスタイル”の再定義である。都市で「働く・暮らす・集う・癒される」をワンストップで提供するインフラとしての都市設計は、今後の東京全体の都市開発における標準モデルともなりうる。

渋谷再開発:カルチャー×テックの新都市モデル

一方で渋谷は、「東京カルチャーの心臓部」としての再定義が進行している。渋谷スクランブルスクエア、渋谷ストリーム、渋谷キャストなど、複数の開発が連動し、これまでの雑多でカオスな都市像を再編集するプロジェクトが展開中だ。

最大の特徴は、「テクノロジーとカルチャーの融合」というコンセプトにある。例えば、スクランブルスクエアの上層にはスタートアップ支援施設「SHIBUYA QWS」が設置され、若手起業家やクリエイターが集い、発信するための都市機能が用意されている。さらに、音楽・映像・ファッションといった文化産業の再集積も進み、渋谷の“場の力”が新たなフェーズに入っている。

デジタル・ネイティブ世代が活躍するこの地域では、スマートビルや次世代モビリティ、AI防犯などの実証実験も多数実施されており、東京の“未来都市”としての性格をより強めている。

竹芝・ウォーターズ竹芝:ウォーターフロントの再定義

港区の海沿い、浜松町駅に隣接する竹芝エリアもまた、次世代都市の実験場として注目されている。東急不動産による「ウォーターズ竹芝」は、劇団四季の劇場、インターコンチネンタルホテル、レストラン群、オフィスを備えた複合施設であり、水辺という特性を生かした都市空間が設計されている。

さらに竹芝では、「スマートシティ」コンセプトのもと、顔認証によるセキュリティやCO2排出量の可視化、再生可能エネルギー活用など、最先端の都市テクノロジーが導入されている。

都市開発において「水辺」はこれまで東京で活かされてこなかった資源の一つである。竹芝はその再発見と活用のモデルケースであり、「都心でありながら水と暮らす」という新たな価値観の提示となっている。

今後の注目エリア:晴海フラッグ以後、湾岸はどこへ向かうのか?

東京湾岸エリアもまた、都市進化の大きな舞台となっている。とりわけ、東京五輪の選手村跡地を開発した「晴海フラッグ」は、国家的プロジェクトとして大きな話題を集めた。分譲・賃貸合わせて5,000戸超の住宅、学校、公園、商業施設を備え、都心からのアクセスも改善されつつある。

その後も湾岸エリアでは、有明北、豊洲二丁目、勝どき東地区など、大型開発が進行・計画されており、特にファミリー層や海外投資家からの関心が高まっている。湾岸エリアは、東京における“次世代都市居住”のモデルケースとして、暮らし方や働き方そのものを再定義する可能性を秘めている。

ただし、インフラ整備や防災面での課題も指摘されており、居住人口増加と地域の機能的整合性をどう両立させるかが今後の焦点となる。

結び:東京はどこへ向かうのか?

都市開発とは、未来を描くことである。 虎ノ門・麻布台が描く国際都市の姿、渋谷が提示するカルチャーとテクノロジーの融合、竹芝が実験するスマートウォーターフロント、そして湾岸が拓く次世代の都市居住──それぞれの開発が、東京という都市をより多様で強靭なものへと変えつつある。

これらのプロジェクトを通じて問われているのは、「どんな都市に住みたいか」「どんな未来を創りたいか」という本質的な問いだ。東京は今、単なる経済都市ではなく、“生き方の器”としての都市へと進化しようとしている。

次なる東京の10年──それは、都市が個人の価値観にどこまで寄り添えるかを試される時間でもある。

出典一覧

麻布台ヒルズ(虎ノ門・麻布台)

渋谷再開発(SHIBUYA QWS)

晴海フラッグ(湾岸エリア)

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