2025.07.02
東京 vs 世界:“超高級レジ”比較

グローバルに展開する富裕層にとって、“住まい”は単なる居住空間ではなく、「投資」「文化的帰属」「ライフスタイルの表明」といった多層的な意味を持つ資産だ。近年、東京でも超高級レジデンスの開発が進み、ニューヨーク、ロンドン、香港と並ぶ選択肢としての存在感を強めている。
では、世界の都市と比べたとき、東京のラグジュアリー住宅はどのような特性を持ち、どのような魅力があるのだろうか。

価格帯比較:東京は“割安”か“慎重”か?
ニューヨーク・ロンドン・香港と比べると、東京の価格は依然として“割安”とされる。たとえば、マンハッタンのセントラルパーク沿いの超高層レジデンスでは、1戸あたり20〜50億円を超えることも珍しくない。ロンドン中心部のメイフェアやナイツブリッジでも、同水準の価格帯が主流となっている。
一方、東京では港区・中央区の最上級物件でも、まだ10億〜25億円前後に収まる物件が多い。これは一見“買い時”のように映るが、背景には日本特有の資産価値の評価方法や、住宅ローンや税制度の違いもある。海外富裕層からすれば「実需+資産継承」を前提とした“慎重な開発”が特徴的とも言える。
また、土地の希少性という観点でも、東京の都市計画はまだ再開発の余地があり、香港やロンドンのように“歴史的制約”を受けたエリアと比べて、価格上昇の伸びしろも存在する。こうした相対的評価が、東京を「コストパフォーマンスの高い資産市場」として浮上させている要因の一つだ。
共用施設:ホテルライク vs 会員制クラブ型
東京のラグジュアリー住宅では、「ホテルライクな共用部」が急速に標準化されている。麻布台ヒルズレジデンスや虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワーでは、レセプション、スパ、ラウンジ、フィットネス、ゲストルームといった充実した設備が揃い、都市生活者に非日常的な体験価値を提供している。
これに対し、ニューヨークやロンドンでは、「プライベートクラブ化」がより進んでおり、専属シェフによるダイニング、ワインセラー、ライブラリーやアートギャラリー、果ては住民専用の演奏ホールまで用意されている物件もある。共用施設が単なる“便利さ”から、“社会資本”としての機能を持つ点で、より文化的な深みがある。
香港では限られた土地事情の中で、スカイプールやヘリポート、空中庭園といった“垂直方向への機能拡張”が特徴だ。都市の三次元空間をどう活用するかという視点は、今後の東京にとっても示唆的である。
建築思想・設計美学:文化をどう扱うか
東京の高級レジデンスでは、「和モダン」「Japandi(ジャパン×スカンジナビア)」「静けさ」など、空間の余白を重んじる日本的美意識が、海外から高く評価されている。麻布台ヒルズやブランズ愛宕虎ノ門などでは、自然素材や柔らかな光を取り入れた設計思想が貫かれ、建築が“体験”を生む舞台装置となっている。
一方、ニューヨークでは“眺望とシンボリズム”が重視され、超高層からのマンハッタンビューこそがプレミアムの源泉である。建築様式はミニマルでガラス主体の“透明な高級感”が主流だ。ロンドンは歴史と格式を強調し、ヴィクトリア朝やエドワード朝を再解釈した意匠設計が主流となっている。リノベーションされた邸宅タイプの高級レジデンスには、建築的物語が色濃く刻まれている。
香港は機能性と資産性を最優先に置き、“坪効率”と投資リターンに直結する設計が求められる傾向にある。装飾性よりも合理性、芸術性よりも実利が強く求められる市場である。
東京が持つ独自の強みと、これからの課題
こうして見ると、東京のラグジュアリー住宅は「価格に対する質の高さ」「美的設計」「安全性」「管理体制」といった側面で、世界的にも高水準にあることがわかる。特に、デザインにおける繊細な職人性、建築と庭との融合といった「文化としての住空間」が、他都市とは一線を画している。
しかしながら、国際基準で評価されるには、まだ課題もある。たとえば、長期保有を前提とした資産設計(相続制度、税制)、国際的に馴染みのある管理言語・契約スキームの導入、文化資源としての住居ブランディングなどは、今後の成長余地といえる。
また、デベロッパーが単に“豪華”さを売るだけでなく、「住まいに物語を込める力」が問われている。建築家やアートキュレーターと協働し、住戸そのものを“唯一無二の空間体験”に昇華する工夫が、次世代の富裕層には期待されている。
まとめ:東京は“居住価値”を超えて“文化資産”へ
東京のラグジュアリー住宅は今、住まいとしての完成度を高めるだけでなく、“世界基準”での選ばれる理由を模索している。価格面ではまだ余地があり、空間の設計思想には世界が憧れる独自性がある。共用部はホテルライクからさらに深化し、「都市における私的楽園」としての成熟が期待される。
今後、国際都市としての東京が“ラグジュアリーな資産文化”を育てられるかどうかは、こうした住宅開発にかかっている。つまり、東京の住まいとは、もはや“居住”ではなく、“都市の記憶と価値を継ぐ器”となりつつあるのだ。
出典一覧
- 森ビル「都市再生の取り組み」
- 麻布台ヒルズ公式サイト
- ブランズ愛宕虎ノ門(東急不動産)
- 東京カンテイ「新築・中古マンション価格データ」
- One57(高級コンドミニアム)
- Douglas Elliman Real Estate – NYC Luxury Report
- Mansion Global「NYC Luxury Real Estate」
- Knight Frank「Prime London Property Market」
- Savills UK「London Residential Report」
- Battersea Power Station(高級再開発事例)
- The Peak(ラグジュアリーレジデンス例)
- Centaline Property – Hong Kong Property Reports
- South China Morning Post – Real Estate News
- Wealth-X「World Ultra Wealth Report」
- UBS Global Real Estate Bubble Index
- PWC + Urban Land Institute「Emerging Trends in Real Estate」
港区から世界のエンドユーザーへ!を掲げ、港区を中心とした高級不動産に関するコラムを執筆中。
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