2025.08.06

東京の“空き家”は富裕層の新たな機会か?

2020年代、東京都心部においても「空き家」が社会的課題として浮上している。高齢化、相続未登記、土地の分筆困難などの理由から放置される物件が少なくない。総務省のデータによると、東京都の空き家率は全国的には低いが、23区内でも“空き家”は確実に増加傾向にある。

このような状況において、富裕層の視点から空き家を捉え直す動きが現れている。すなわち、“遊休不動産”を“都市資産”として再生・転用する試みだ。本稿では、東京都心の空き家問題を出発点に、それが富裕層のライフスタイルや資産形成における新たな機会となりうるかを考察する。

1. 東京都心にも存在する“都市の空洞”

一見、高稼働に見える都心部。しかし住宅地に目を向けると、以下のような「活用されていない住宅ストック」が多数存在する:

  • 相続問題で凍結された戸建住宅(特に文京区・目黒区・港区など)
  • 長期間売却できず放置された旧耐震マンションの一室
  • 借地・底地など権利関係が複雑で手が出しにくい土地

これらは市場に流通せず、「不動産のブラックボックス」として埋もれている。だが裏を返せば、こうした物件は価格競争からも外れており、“再生の余地が大きい物件”として潜在的な価値を秘めている。

2. 空き家を「買う」富裕層──なぜ注目されているのか?

富裕層が空き家再生に注目する理由は、単なる投資利回りではない。主な動機は次の3点である:

  • (1)文化的価値・歴史性への共感:古民家・旧邸宅・旧蔵を「継ぐ」という感覚
  • (2)オーダーメイド性:立地は抜群だが、躯体は古い──だからこそ、ゼロベースで空間を設計できる
  • (3)オフマーケット性:表に出ていない空き家は、競争が少なく、交渉による“意外性のある価格形成”が可能

たとえば南麻布の旧家を全館リノベーションし、アートギャラリー兼邸宅に転用するケースや、神楽坂の路地裏に残る町家を再生し、海外ゲストを迎えるホスピタリティ空間として活用する事例もある。

3. 「空き家活用」に伴う課題と、それを乗り越える手法

とはいえ、空き家取得には注意すべき点も多い。とくに以下のような障壁がある:

  • 所有者不明/複数相続で交渉が難航
  • 建物の老朽化・シロアリ・アスベスト等のリスク
  • 再建築不可物件(接道義務を満たさない土地)

これらに対し、次のような対処法が有効となる:

  • 専門家チームの組成(建築士・測量士・弁護士・家系図調査士など)
  • 行政支援制度の活用(例:空き家バンク、固定資産税軽減、助成金制度)
  • 「期間限定再生」型の発想:暫定利用としてのコンバージョン(アート展示、ポップアップ宿泊施設など)

富裕層の資本力と企画力があれば、これらの障害は「価値創造の余白」として活かせる可能性がある。

4. 空き家は“都市のアセット”になり得るか?

空き家を単なる問題ではなく、「都市の再編集素材」として捉える視点が重要になっている。特に次のような再活用モデルが注目される:

  • 文化施設への転用(歴史的邸宅→茶室・ギャラリー)
  • マイクロホテルや旅館業への転換(訪日客の体験型宿泊)
  • 賃貸併用住宅への再構築(資産の自家活用+収益性)

また、都心空き家の多くが“低層・庭付き”という特徴を持つ点も見逃せない。高層タワーにはないプライバシーや緑視環境が得られるという点で、都心低層レジデンス再生への関心も高まっている。

5. 法制度とデジタル技術が後押しする“空き家マーケット”の未来

空き家市場が拡大する背景には、法制度と技術革新の両面がある。

  • 空き家対策特別措置法の改正(2023年):管理不全の空き家への課税強化、取り壊し指導の円滑化
  • デジタル登記・家系図検索サービス:所有者調査や相続関係者の把握が迅速化
  • 3Dスキャン・BIM技術の導入:老朽建物の構造診断やリノベ設計に革命を起こす

これらの制度・技術を活用できるプレイヤーこそ、空き家再生マーケットの先導者となりうる。

まとめ:都市に眠る“静かな富”を動かす力

空き家問題とは、都市の“眠っている富”をいかに目覚めさせるかという問いでもある。富裕層にとってそれは、単なる物件取得ではなく、「文化を継ぐ」「都市を再編集する」「資産を次代に引き継ぐ」という行為にほかならない。

東京の空き家は、今まさに“再解釈”されようとしている。そこに見出すのは、土地の価値ではなく、時間と物語と空間を掛け合わせた“都市の真価”である。

【出典一覧|空き家と富裕層ニーズに関する資料】

1. 総務省「令和5年 住宅・土地統計調査」速報値(空き家率・推移など)

2. 国土交通省「空き家対策特別措置法」および関連政策概要

3. 東京都「空き家活用等地域貢献事業」
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/04/12/12.html
(東京都住宅政策本部)

4. 国土交通省「空き家・空き地等の利活用の好事例集」2023年版
https://www.mlit.go.jp/common/001638240.pdf
(国交省 まちづくり推進課)

5. 東京カンテイ「高額中古マンション動向」2023年版(富裕層のニーズ把握)

6. リノベーション協議会「リノベーション白書2023

7. 「別荘ニーズと二地域居住に関する調査(株式会社リクルート)」

8. LIFULL HOME’S 総研「空き家の再生可能性と富裕層消費動向


港区から世界のエンドユーザーへ!を掲げ、港区を中心とした高級不動産に関するコラムを執筆中。
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